今回の記事では、TOEIC(L/R)試験で、英語のスピーキングの実力が測定できるのかについて学会での論文の発表を続けながら、大学や企業向けに英語研修を提供している鈴木武生氏に話を伺った。

 

 

<以下、鈴木氏の見解である。>
TOEICが導入されてはや数世代が過ぎ、今やこのテストのスコアが英語の能力を「客観的」に示す物差しとして広く認識されてるようになっている。しかしこうした認識が広がると今度は別の疑問点に気付く人が増えてくる。その中で最も多いのが、「TOEIC(L/R)って本当に英語の実力が分かるの?高スコアとっていても全然しゃべれない人たくさんいるよ」といった疑問の声だ。

 実はここには大きな問いが隠れている。それは「コミュニケーション力とは何か」という問いである。コミュニケーションという概念は広い。コンビニ店員と客のやり取り、オフィスでのミーティング、親子の会話、子供の口げんか、音楽、絵画表現、小説まで、人間間の情報・情動のやりとりすべてがこの範疇に含まれる。

 東京では多くの外国人がコンビニでアルバイトをしている。彼らの日本語会話力はオフィス勤めをするにはまだ不十分かもしれない。しかし店内の限られた業務範囲なら立派に働いている。同じことが英語にも当てはまる。工場ラインの現場で、働き方を英語で指示するようなシチュエーションと、TEDでスピーチをする場合は求められるスピーキング技能の性質はおのずから異なる。TOEICL/R)のスコアはこうした技能の性質的違いをほとんど反映できていない。

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 第二の問題は属人的な対人姿勢・スキルの問題である。これは英語力というよりも文化・環境的に培われた本人が持つコミュニケーション適性である。一昔前、「三言亭主」という言葉が流行した。亭主は帰宅しても「飯、風呂、寝る」の三語しか言わず、話を聞いてすらもらえない妻はいつもストレスを抱えっぱなし、という現象である。すべてを三言で表現するのだから、「シンプル・イズ・ベスト」で、最小限のエネルギーで明快かつ効率的にコミュニケーションを図るグレートコミュニケーターとは言えないだろうか?その答えは氏の退職後、家庭における妻の扱いが説明してくれよう。

つまり「言葉を発する」=「コミュニケーションをとる」という図式はかならずしも成り立たないのである。そこには積極的な働きかけ、思いやりや気持ち、タイミングなど、楽しさ、うれしさ、共感を引き出す対人姿勢、さらに求めればその対人姿勢を裏支えする知識・教養・ユーモア・人格なのが求められる。TOEICL/R)も含めこうした力量(EQとも言えるか?)を計測するテストは存在しない。

 第三の問題―これがもっとも重要なのだが―は、スピーキング力とは知識ではないという点だ。つまり運動、例えばテニスに似ている。想定内、想定外のボールというメッセージを相手にけがを負わせず、ある程度求めている場所に向けて瞬発的に打ち返し、それを続けるのである。そこには打つためのしきたりがあり、これを文法と呼ぶ。

しかしボールが飛んできている最中に文法を考えても間に合わないため、普段から壁打ち練習や練習試合を継続的に行う必要があるが、本番の試合では、想定外のボールも飛んでくるため臨機応変さが求められる。TOEIC(S/W)テストではこうした技能をある程度計測できるようになっているが、従来のL/Rテストではこうした力は全く測れない。

 

結論としては従来型のテストではスピーキングをうまく計測できず、また高いオーラルコミュニケーション力を持つためには第三点で述べた練習と技能、そして第二点で述べた対人能力の二つが必要になるのである。(TOEIC L/R)で測れるのは、スピーキングの基礎の骨の部分のみで、スピーキングの筋力の有無は計測出来ない)。

つまりスピーキング力強化のためには、TOEIC (L/R)対策の他にスピーキング力強化に特化したトレーニングをする必要がある。

次回の記事では、スピーキング力強化のための方法を記載する。

 

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鈴木 武生(すずき たけお)

元商社マンから日本語教師、翻訳者、通訳者、辞書編纂者を経て独立。東京大学大学院博士課程修了、Ph.D(言語学)。英image-2日中の意味論、構文論、語用論。タイヤル語の文法記述
株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。    https://asiaeuro.org/


「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人とコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したら良いのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか。」という思いで設立。代表として企業語学研修を中心とし、日系・外資を問わず、またあらゆる業種の企業に対し、学習者の語学力向上をサポート。