企業の日本語研修はやみくもに始めるのではなく、受講者それぞれに明確な目標を設定するのがポイント。それを段階的にクリアしていくことで、モチベーションを維持することができます。そのための方法を探ってみましょう。

 

目標レベルは、どう設定したらよい?

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日本語研修を実りあるものにするために、まず明確にしたいのが「目標」です。現状の日本語力を把握した上で、伸ばしたい力は何か、研修後、どの程度のレベルに到達したいのかなどを具体的に設定しましょう。「納期の確認がメールでできる」など、わかりやすい表現で記すと、やるべきことが明確になり、モチベーションも維持しやすくなります。まず、どのようなことにポイントを置いて目標設定したらよいか、考えてみましょう。

 

①どの力を伸ばしたいのかを明確に定める

「日本語力」と一口でいっても、会話力なのかメールを書く力なのか、など、その内容はさまざまです。まずはどの力を伸ばしたいのかを見極める必要があります。

語学力を考える場合、大きく「話す」「聞く」「読む」「書く」という四技能に分けて考えると整理しやすいでしょう。最終的には四技能をバランスよく伸ばすことが理想ですが、まずは業務にはどの技能が必要か、優先順位をつけて考えると、目標が立てやすくなります。なお、「話す」「書く」はアウトプット、「聞く」「読む」はインプットに、さらに、「話す」「聞く」は音声コミュニケーションに、「書く」「読む」は文字コミュニケーションに使用される技能という分類もできます。

 

②受講者の特性を把握する

受講者の特性の中で最も考慮すべきなのは、漢字圏出身か非漢字圏出身かということです。中国、韓国、台湾などの漢字圏出身の場合、漢字学習のハードルは低く、その分「読む」「書く」の学習は、非漢字圏に比べると早く進みます。ただし、文字を見て理解できてしまう分、「話す」「聞く」が苦手という人も少なくありません。また、日本で使われる漢字の意味と、各母語で使用される意味が異なるものも多いので、注意が必要です。

一方、非漢字圏の場合は漢字学習の負担が大きく、習得にはかなり多くの時間を要するということを理解しておく必要があります。その上で到達目標や必要な時間数を設定することがポイントになるでしょう。

 

③職場で必要とされる日本語力は何かを見極める

3つ目は、実際に職場で必要とされている日本語の種類とレベルを見極めるということです。職場で使用されている語彙の収集・調査をしたり、職場の日本人社員にヒアリングをしたりして、実際の言語使用状況を掴んで目標を設定すると、研修効果も見えやすく、受講者と職場の社員双方の満足感にもつながりやすいでしょう。

 

④スモールステップでゴールを設定する

目標設定は、初めから遥か遠くのゴールを示すのではなく、スモールステップで示すほうが達成感を得やすく、学習を継続しようというモチベーションにもつながります。

 

日本語研修の目標とレベル設定の参考になる指標

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目標設定を具体的に示すといっても、ゼロから作るのは大変です。そこで、指標設定の際に参考にできそうなものを紹介します。

 

①日本語能力試験(JLPT)の「認定の目安」

JLPTは世界規模で実施されている試験で、各レベルの認定の目安は、大学などへの入学基準や企業の採用基準として利用されるなど、広く認知されています。レベルはN1からN5までの5段階で、最上レベルN1の認定目安は「幅広い場面で使われる日本語を理解することができる」、最も初歩レベルのN5は「基本的な日本語をある程度理解することができる」とされています。ちなみに「特定技能」ビザの取得要件は、下から2番目の「N4」程度で、「基本的な日本語を理解することができる」となっています。

ネイティブレベルの日本語運用力を必要とする職種であればN1レベルの日本語力が必要でしょう。漢字圏出身であれば、学習開始から12年ほどでN1レベルを目標とすることは可能だと考えられます。一方、非漢字圏出身ではN1を目標とするのは、かなり難しく、学習開始から2年であればN3N2程度を目標とするのが現実的です。

なお、JLPTの場合、気をつけたいのは、漢字圏出身者でN1に合格していても「会話」は苦手という人がいることです。それはこの試験が「読む」「聞く」能力を測定する問題に偏っているためです。
(※参考:https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html

 

②BJTビジネス日本語能力試験(BJT)

ビジネスシーンに特化した日本語能力を測るテストで、到達レベルの指標が5段階に分けられ、ビジネス向けに記されています。(※参考:https://www.kanken.or.jp/bjt/about/level_sample.html

 

③ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR〈セファール〉)

CEFRはEU域内の外国語学習の振興を目的に、それまで言語によってバラバラだった教育目標と評価基準を統一し、6段階(A1C2)に分けて示したものです。JLPTは「聞く」「読む」のみですが、CEFRは「話す」「書く」についても、より具体的に「そのレベルで、どのようなことができるのか(Can-do)」という形で示されています。

例えば、初級から2番目の「A2」の「話すこと」では「単純な日常の仕事の中で、情報の直接のやり取りが必要ならば、身近な話題や活動について話し合いができる」などと示されています。JLPTとの相関は一概には言えませんが、概ねCEFR A2JLPT N4レベルに相当すると考えられています。

なお、このCEFRを元に、国際交流基金が日本語版Can-doを作成し、公開しています。これも目標設定を考える上で参考になるでしょう。(※参考:https://jfstandard.jp/pdf/20190731_JF_Cando_Category_list.pdf

 

目標設定は、受講者の現状の日本語力や特性を把握した上で、どのような力を伸ばしたいか、職場のニーズと摺り合わせて行うことが大切です。実りある企業研修とするために、きめ細かい分析を行って、研修内容を決めたいものですね。

 

執筆者:青山美佳
フリーランスライター・編集者 
成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。
主に、外国人の日本語学習、言葉とコミュニケーションにかかわる分野を中心に、日本語能力試験の問題作成・テキストの執筆、取材・記事執筆、編集・校正、文章添削などを行う。

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